賃貸の退去前は、荷物とゴミを撤去し、床の掃き拭きやキッチン・水回りなど、普段の手入れで落とせる汚れを掃除するのが基本です。新品同様に戻すための張り替えや、設備の分解まで自分で進める必要があるとは限りません。掃除では直せない傷や落ちない汚れは、状態を記録して管理会社へ伝えましょう。
「業者が清掃するから何もしなくてよい」「自分で磨けば清掃費は必ずなくなる」とは考えないことが大切です。契約上の費用負担と、自分が行う手入れは分けて整理します。
この記事でわかること
- 場所別の掃除の目安
床・収納・窓・キッチン・水回りで自分が取り組む範囲。 - 作業を止める判断と段取り
無理に除去しない汚れ、荷出しから鍵返却までの進め方。 - 清掃費と引継ぎの準備
特約・明細の見方、写真と連絡メモの残し方。
退去前の掃除は「普段の手入れ」と「補修」を分ける
目標は、ゴミや手入れできる汚れを残さず、室内の状態を見て判断できるようにすることです。掃除で汚れを取り除く作業と、傷や設備を直す作業を一緒にすると、不要な自己補修や工事手配につながります。次の図は作業を分けるための整理例で、貸主・借主の費用負担を決める図ではありません。
通常の掃除で取り組むのは、ゴミ・ほこり・表面の汚れ
ゴミの撤去と、素材に合った普段の掃き掃除・拭き掃除から進めます。家具の裏や収納の奥は、荷物を出してから見える場所です。室内が空になった段階で、取り残した荷物と汚れを分けて拾っていくと、何をするかが明確になります。
東京都の退去時の掃除と修繕費に関する相談事例は、ゴミを処分し、自分できれいに掃除することを案内しています。特約がなく、不注意による汚損・破損もない場合について、次の入居者のために行うハウスクリーニング費用は貸主が負担すべきと説明しています。業者の仕上げ清掃と借主の日常的な手入れを区別する参考になります。
傷・欠け・変色は、磨いたり隠したりする前に記録する
傷や欠けは、汚れを落とす掃除だけでは直りません。床に傷があるのに、見えなくするために塗料を塗る、壁紙の一部を貼り足す、といった作業は掃除と分けて考えましょう。表面の汚れは取扱説明に沿って掃除し、傷や欠けは写真に残して補修前に貸主側へ伝える、という分け方が実行の目安です。
これは見た目だけで費用負担を決めるという意味ではありません。入居前からの傷か、通常の使用による変化かなども関係します。床については賃貸の床の傷・補修の確認点で、補修方法と相談前に残す情報を詳しく扱っています。
場所別の掃除は、手の届く表面と利用者の手入れ範囲を中心にする

床・収納・窓・キッチン・水回りを順に見て、取り扱える範囲の汚れを落とします。以下は清掃を進めるための編集上の整理例です。契約上の義務や、すべての設備に共通する洗浄方法を定めるものではありません。洗剤や道具は素材・製品の表示、設備の取扱説明書に合わせて選びます。
| 場所 | 取り組む範囲 |
|---|---|
| 床・収納 | 荷物とゴミを撤去し、ほこりを取り、手入れ方法に沿って表面を拭く。 |
| 窓・建具 | 手が届く内側のガラス、サッシ、扉のほこりや手あかを取る。 |
| キッチン | シンク、調理台、コンロ周りと、手入れ可能な部品の汚れを落とす。 |
| 水回り | 髪の毛やゴミを除き、浴室・洗面・トイレの手が届く表面を掃除する。 |
| 設備・屋外 | 取扱説明書の手入れ範囲と、安全に作業できる場所を見極める。 |
床・収納は、荷物を出してから奥まで見る
床を掃除する前に、ほこりや小さなゴミを取り除きます。家具があった場所、巾木と床の境目、クローゼットの隅を見て、置き忘れた物がないかも確かめましょう。収納は棚の上面だけでなく、引き出しや扉の内側に私物が残っていないか見直します。
床材の手入れ方法が分からないときは、水を多量に流す、研磨する、ワックスを塗るといった作業へ進まず、方法を管理会社へ尋ねてください。例えば黒い線が残る場合も、強くこすって隠そうとせず、掃除前後の写真を残します。汚れと変色・傷を自己判断で同一視しないためです。
キッチン・換気扇は、表面と取り扱える部品を分ける
シンクや調理台、コンロ周りに残った汚れを、製品の手入れ方法に沿って落とします。物をどけてから、油が付いている場所と単なるほこりを分けて見ます。引き出しや収納に残る食品、袋類、掃除道具も持ち出しましょう。
換気扇やレンジフードは、フィルターなど利用者が手入れできると説明されている部品までを対象にします。取り外し方が分からない部品、内部の配線やモーターには手を付けません。油が落ちない、部品が外れない場合は、機種と場所、残っている状態を伝えて作業範囲を相談します。
浴室・洗面・トイレは、ゴミの除去と表面の清掃から
排水口周りの髪の毛やゴミを取り、手の届く表面を掃除します。洗面ボウルや蛇口の周り、浴槽、トイレなどを見回し、手入れ方法に合う道具で汚れを落としましょう。排水口の部品は、利用者が外して掃除できると取扱説明書に示された部分に限ります。
黒い点や水あかが残っても、汚れの種類を決めつけて強い薬剤へ切り替えないでください。使える洗剤、使い方、換気や保護具の注意事項は製品の表示に従います。製品の表示で禁止された組合せや使い方は避け、落ちない箇所を写真とメモで残します。
窓・ベランダ・照明は、届く場所と共用部分の境界に注意する
窓の内側やサッシ、扉など、安全に手が届く表面を中心にします。屋外側の高い窓を掃除するために身を乗り出す必要はありません。照明カバーも、利用者が取り外せるか分からなければ無理に外さず、手入れの範囲を尋ねます。
ベランダは私物とゴミを取り除き、排水口周りや床に落ちているものを見ます。大量の水を流す前に、使用細則や管理会社の案内で清掃方法を確かめてください。避難設備や共用部分を動かしたり、ほかの住戸へ水が流れる作業を自己判断で進めたりせず、自分の使用範囲を清掃します。
落ちない汚れや設備内部は、無理に仕上げず作業を止める
素材を傷めそうな作業や、利用者の手入れ範囲を超える分解は、その場で進めないことが判断基準です。「退去まで時間がないから」と作業を追加するより、何が残ったかを具体的に伝えた方が、次の対応を決めやすくなります。
カビ・変色・落ちない汚れは、原因を断定せず伝える
残った汚れの場所、見つけた時期、行った掃除をメモにします。例えば「洗面台の蛇口の根元に白い跡が残る」「浴室の壁の隅に黒い点がある」のように、見える状態を伝えれば足ります。借主が付けた汚れとも、建物の欠陥とも決めつけないでください。
国土交通省の原状回復ガイドラインQ&Aは、通常の掃除を怠ったために特別な清掃が必要なカビ等が生じた場合、借主の注意義務違反による損害になり得ると説明しています。汚れが残っているだけで一律に借主負担になるという説明ではありません。入居時の記録や、以前に貸主側へ連絡した履歴も添えましょう。
エアコンは、フィルターの手入れと内部洗浄を分ける
取扱説明書で認められたフィルター等の手入れと、機器内部の洗浄は別の作業です。退去前の掃除を理由に、自己判断で内部へ洗浄液を吹き込むことは避けましょう。埼玉県のエアコン内部洗浄の事故・トラブルに関する注意喚起には、洗浄剤が電気部品に付着し、発火事故につながった事例が掲載されています。
同県は、賃貸住宅の場合は事前に管理会社へ相談するよう案内しています。機種名、気になる臭いや汚れ、手入れした箇所を伝え、作業の手配者と内容を決めてから依頼してください。内部洗浄を借主が依頼すれば清掃費を減らせる、とは限りません。
掃除の段取りは、荷出し・使用停止・鍵返却から逆算する

荷物がなくなってから必要な掃除を終え、撮影と室内確認をして鍵を返す流れを組みます。必要な時間を一律には決めず、荷物の量や汚れの残り方、退去当日の移動時間を予定に含めましょう。
引越し前に、手入れできる場所とゴミの処分予定を決める
使わなくなった収納や設備周りから進め、荷出し後に床や家具の裏を仕上げると段取りを組みやすくなります。これは一般的な作業の組み方の例です。同じ日に引越しと立会いを行う場合は、搬出後に掃除と撮影ができる余裕を残してください。
粗大ゴミ等は自治体や収集方法ごとに手続きが異なります。収集日や持込み方法を自治体の案内で調べ、引渡し後に回収する予定のまま部屋へ置き残さないようにします。処分できない物がある場合は、物の種類と搬出できる予定日を早めに貸主側へ伝え、扱いを決めます。
水道・電気の停止と立会いの予定を重ねて確認する
掃除や設備確認で水道・電気を使う予定と、停止手続きの日を照合します。すべての物件で同じ停止日が正解とは限りません。「掃除をする時間帯に使用できるか」「当日の設備確認に必要か」を、契約先と管理会社の案内に沿って整理してください。
最後に使う道具は、掃除機やほうき、素材に合うクロス、ゴミ袋など、作業内容に必要なものだけ残します。手入れを終えたら道具やゴミも持ち出します。退去の時間や鍵の受け渡し方法は退去立会いの目的と当日の流れとあわせて準備しましょう。
掃除しても清掃費が発生する場合は、特約と明細を読む
掃除の出来栄えと契約上の清掃費を分け、請求の作業内容と根拠を尋ねます。汚れを落としたという理由だけで費用がなくなるとも、特約があれば必ず全額負担とも判断できません。
契約書では、負担する人・作業範囲・金額の条件を見る
契約書や重要事項説明書の清掃費の条項を、請求内容と並べて読みます。誰が負担するか、部屋全体か設備単体か、金額の記載や算定方法、清掃の状態で扱いが変わる記載があるかを見ます。記載が見当たらない部分は、自分に有利・不利と先に決めず、その条項を管理会社へ示して説明を求めてください。
前掲の国交省Q&Aは、クリーニング特約の有効性を、負担内容・範囲の明示、通常損耗分も負担する趣旨や具体的範囲の明示・説明、費用の妥当性などから判断すると説明しています。条項の判断を詳しく知りたい場合は原状回復特約とクリーニング特約の注意点を参照してください。
明細では、同じ場所の清掃が重なっていないか尋ねる
「室内清掃一式」と「水回り清掃」などが並んでいる場合は、それぞれの対象と作業を聞きます。名前が似ていても別作業の場合があるため、項目名だけで二重請求と決めないことが大切です。「一式に浴室や換気扇は含まれますか」「別項目はどの追加作業ですか」と尋ねると、違いを説明してもらいやすくなります。
例えば、連絡文は「退去時清掃の請求について、室内清掃一式の対象箇所と、別記の換気扇清掃の作業範囲を教えてください。契約のどの条項に基づく負担かも説明をお願いします」のように具体化できます。これは文面の例であり、実際の顧客事例ではありません。費用項目全体は原状回復費用の目安と負担の確認点で整理しています。
掃除後の写真は、全景・周囲・近接で場所と状態を残す
近接写真だけで終わらせず、どの部屋のどの場所か分かる写真を組み合わせます。次の図は、位置と状態を伝えるための編集上の撮影例です。公的な撮影規格や、責任を判定する基準を示すものではありません。
写真とメモを組み合わせ、入居時の記録も分けて保管する
部屋全体が分かる写真で、どの部屋かと傷の位置を示します。汚れや傷の周囲も撮り、床と壁、建具などとの位置関係が分かるようにします。近接写真では傷や汚れの形と範囲を残し、写真だけで原因や責任を断定しません。
国民生活センターの賃貸住宅の原状回復トラブルに関する注意喚起も、退去時にはできる限り貸主側と一緒に、写真やメモを取りながら現状を確認するよう勧めています。上の撮り分けは、その記録を後から読み取りやすくする提案です。例えば「洋室の窓側・床」「掃除後も残る線」といった場所と状態のメモを添えます。
入居時の写真、以前の不具合連絡、今回の清掃後の写真を混ぜず、撮影日や連絡日が分かるように保存します。「最初からあった」と記憶だけで言い切るのではなく、残っている資料と分からないことを分けて伝えましょう。
鍵の返却前に、残った物と未解決の箇所を引き継ぐ
掃除済みの場所、残った状態、まだ合意できていない内容を区別して共有します。次のチェック項目を使うと、立会い直前の見落としを減らせます。すべてに問題がないことを写真だけで証明しようとせず、担当者とのやり取りも残してください。
- 私物とゴミ
収納・ベランダ・郵便受け等に残した物がないか見直す。 - 掃除と未解決の状態
落ちない汚れや傷、連絡済みの設備不具合をメモと写真で示す。 - 引継ぎ
鍵の本数・返却先・日時を貸主側の案内と照合し、返却や連絡の記録を保存する。
請求に納得できない場合、国民生活センターは、貸主側に明細等の説明を求め、費用負担について話し合うよう案内しています。話し合いで解決できないときは、消費生活センター等への相談を検討してください。清掃後の写真は請求の免除を保証するものではなく、話し合いで状態を共有するための資料です。
退去前の掃除でよくある質問
ここでは、作業の範囲以外にも迷いやすい場面を補足します。手配や返却の予定を変えるときは、相手と合意する内容を具体化しましょう。
入居時に清掃費を払っていても、退去時に請求されますか?
先払いという説明と、退去時の負担条項が何を対象としているかによります。入居時の領収書や見積書、契約書、説明を受けたメール等をそろえ、同じ時期・同じ作業の費用かを尋ねてください。支払った事実だけで二重請求と断定せず、逆に請求されたという理由だけで追加負担を了承する必要があるとも決めないことが大切です。
臭いが気になる場合は、消臭すれば引き渡せますか?
臭いの原因や残る範囲を伝え、消臭だけで対応できるかを貸主側と整理します。いつ、どの部屋で気になるか、換気後も残るかをメモにします。強い香りで覆って状態を分かりにくくするより、臭いが残る事実を共有しましょう。喫煙が関係する場合の負担や工事範囲は煙草のヤニ・臭いの原状回復で扱っています。
掃除が終わらず、鍵を返した後に戻りたいときは?
返却後に入れると考えず、鍵の返却前に作業の終了予定と入室の扱いを相談します。例えば、残る作業の場所と内容、搬出予定を伝え、誰がいつ対応するかを決めてください。無断で鍵を残したり、合意せず引渡しを遅らせたりしないようにします。追加の費用等があると言われた場合は、何の費用かと算定の根拠も説明を受けましょう。
自分で安い清掃業者を探して、先に頼んでもよいですか?
先に契約と貸主側の手配予定を見て、作業範囲と費用の扱いを決めてください。国交省Q&Aは、自分で原状回復工事を手配する場合について、貸主や指定業者が工事する旨の契約があるときは、貸主の承諾がない限りその定めに従うと説明しています。これはすべての清掃契約に同じ結論を当てはめる説明ではありませんが、先に依頼して貸主側の清掃も別に必要になる行き違いを避ける参考になります。
掃除で整える範囲と、引継ぎで伝える状態を分けて退去する
普段の手入れを終え、無理に直さない箇所を記録して引き継ぐことが、退去前の掃除の着地点です。荷物とゴミを持ち出し、場所別の表を使って手入れを進め、残った汚れや傷を写真とメモで共有しましょう。請求は清掃の出来栄えだけで判断せず、契約と明細を並べて読みます。
借主の費用負担の疑問は、まず貸主側への説明依頼や消費生活センター等への相談につなげます。以下は、管理会社・オーナーが退去後の清掃や原状回復工事の手配を相談するための窓口です。借主向けの法的な紛争代理を案内するものではありません。
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