賃貸住宅で煙草を吸っていた場合、退去時のヤニ汚れや臭いは誰の負担になるのでしょうか。喫煙による変色や臭いが通常使用の範囲を超えていると判断される場合、借主負担になることが多いのが国土交通省ガイドラインの考え方です。ただし、請求額や工事範囲がそのまま全額借主負担になるとは限りません。損耗の程度、喫煙場所、入居期間、クロスの経過年数、契約内容などを確認して判断します。
原状回復で煙草のヤニ・臭いは借主負担になる?
国土交通省のガイドラインでは、喫煙等によって当該居室全体のクロス等がヤニで変色したり、臭いが付着したりした場合には、居室全体のクリーニングまたは張替え費用を借主負担とすることが妥当とされています。一般的な日焼けや家具の設置跡とは区別して考える必要があります。
民法621条も、通常の使用・収益によって生じた損耗や経年変化を原状回復義務の対象外としています。一方、借主の故意・過失や通常の使用方法を超える使い方によって生じた損傷・汚損については、原状回復義務の対象となる場合があります。「室内で吸った事実」だけで一律に決めるのではなく、残った変色・臭いと必要な復旧内容を確認することが出発点です。
煙草による原状回復で確認される損耗

煙草の影響は壁紙だけに限りません。煙が室内に広がると、天井、建具、換気設備などにもヤニや臭いが付着することがあります。目視できる汚れと、清掃後も残る臭いを分けて記録すると、必要な工事を検討しやすくなります。
クロスや天井の黄ばみ・変色
白いクロスでは黄ばみが分かりやすい一方、色柄のあるクロスでは照明や日焼けとの区別が難しいことがあります。窓際だけでなく、家具の裏側や非喫煙室など、ヤニの影響が比較的少ない場所との色差を確認すると、変色の範囲を記録する参考になります。居室全体に変色が及んでいるかは、補修範囲を考えるうえで重要です。
室内や設備に残る臭い
臭いは、クロス、カーテンレール、エアコン、換気扇、建具などに残る場合があります。入室直後だけでなく、換気後や清掃後にも確認し、臭いの残存範囲と発生源の候補を記録します。臭いの感じ方には個人差があるため、臭いは感じ方に個人差があるため、確認した場所や時間、換気や清掃の状況など、確認条件を具体的に記録しておくと、後から状況を整理しやすくなります。
- 壁・天井
黄ばみ、色差、ヤニの付着範囲を全景と近景で撮影する。 - 建具・設備
扉、収納、エアコン、換気扇などへの付着と臭いを確認する。 - 部屋ごとの差
喫煙した部屋と非喫煙室、廊下などの状態を比較する。
借主が負担する範囲はどこまでか

煙草による汚損が借主負担と判断されても、復旧工事のすべてを無条件で借主へ請求できるわけではありません。原状回復は、入居前より新しくするためのリフォームではなく、借主の責任によって生じた損耗を復旧するためのものです。
居室全体のクロス張替えが対象になる場合
クロスの補修範囲について、国土交通省のガイドラインでは㎡単位が望ましいとしつつ、借主が毀損した箇所を含む一面分までは張替え費用を借主負担としてもやむを得ないとしています。ただし国土交通省資料では、喫煙によって居室全体のクロスが変色し、または臭いが付着した場合には、居室全体の補修費用を借主負担の対象とする考え方が示されています。実際の範囲は、写真や臭いの記録、清掃で改善するかなどを踏まえて決めます。
経過年数と残存価値を考慮する
借主負担の対象であっても、クロスが新品だった場合と長年使用されていた場合では負担の考え方が異なります。クロスについて国土交通省のガイドラインでは、6年で残存価値が1円となるような考え方を目安として、経過年数に応じた負担割合を算定します。そのため、同じ張替え工事でも、新しいクロスと長期間使用されたクロスでは借主負担の考え方が異なります。耐用年数を超えたから必ず負担がゼロになる、という単純なルールではありませんが、既存クロスの状態や交換時期を無視した全額請求は避けるべきです。
清掃・消臭・張替えの必要性を分けて確認する
洗浄で改善するのか、消臭・下地処理が必要か、張替えまで必要かを順に検討します。清掃、消臭、下地処理、クロス張替えなどが見積もられている場合は、それぞれの作業がなぜ必要なのか、対象範囲と目的を確認しましょう。施工会社の現地確認を受け、作業内容、数量、単価、対象部位が分かる明細を作成します。
禁煙特約があれば全額請求できるとは限らない
契約書に禁煙や喫煙時の原状回復に関する特約がある場合は、その内容も負担判断の重要な要素になります。ただし、借主に通常の原状回復義務を超える負担を課す特約は、記載されているだけで常に有効になるわけではありません。国土交通省のガイドラインでは、借主に通常以上の負担を課す特約について、①特約の必要性があり、暴利的でないなど客観的・合理的な理由があること、②借主が通常の原状回復義務を超える負担を負うことを認識していること、③借主がその義務負担について意思表示していることなどが必要と整理されています。
特に「退去時はクロスを全面交換する」といった負担の大きい条項では、対象範囲や条件が明確か、契約時に説明されていたかを確認します。喫煙禁止の物件で契約違反が確認された場合でも、原状回復費用を請求する際は、契約・特約の内容と、実際に生じた汚損や必要な復旧工事との関係を整理して説明できるようにしておくことが重要です。
- 契約条項
禁煙範囲、違反時の扱い、クリーニングや張替えの条件を確認する。 - 説明・合意の記録
契約書、特約条項、署名・押印、入居時案内など、禁煙条件や費用負担について説明・合意した記録を確認する。 - 損耗と見積
実際の変色・臭いと、請求する工事の必要性が対応しているかを見る。
退去立会いで残すべき証拠と確認手順

煙草の原状回復では、入居者・管理会社・オーナーの認識が食い違いやすいため、後から状態を確認できるよう、写真や記録をできるだけ具体的に残しておくことが重要です。退去立会いの時点で金額を断定せず、まず事実確認に集中します。
写真は全景・比較・接写で残す
部屋全体の変色が分かる全景、非喫煙室や家具裏との比較、ヤニの付着が分かる接写を撮影します。撮影日時、部屋名、方角、対象部位が追えるように整理し、どの写真がどの見積項目の根拠かを対応させます。
臭いは確認条件も記録する
臭いについては、換気の有無、確認者、確認した場所、清掃前後などの条件を記録します。エアコン運転時だけ臭う場合や、収納内部に臭いが残る場合もあります。「臭いあり」だけで終わらせず、場所と条件を具体化することで、消臭作業の必要性を説明しやすくなります。
その場で負担額を確定しない
現場では損耗箇所と入居者の説明を記録し、契約書、入居時写真、経過年数、施工見積をそろえてから負担区分を検討します。立会い確認書への署名も、状態確認への署名なのか、費用負担への同意なのかを明確にします。
煙草の原状回復費用をめぐるトラブルを減らす方法
トラブルを減らすには、退去時だけでなく入居時から準備しておく必要があります。禁煙条件を分かりやすく説明し、入居時の壁・天井・設備の状態を写真で残します。管理会社やオーナー側では、契約時に禁煙条件や原状回復条件を明確にし、入居時の壁・天井・設備の状態を写真などで記録しておくことが重要です。
原状回復工事の見積では、部位・数量・単価・作業内容をできるだけ具体的にし、借主への精算時には、経過年数や契約内容を踏まえた負担割合とその根拠を分かるように示すことが望まれます。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」には、負担区分や精算明細の考え方が示されています。契約と実際の状態を照合し、説明可能な見積に整えることが重要です。
- 入居時
禁煙条件を説明し、クロスや設備の初期状態を記録する。 - 退去立会い時
変色・臭い・付着箇所を写真とメモで客観的に残す。 - 精算時
経過年数と必要な施工範囲を確認し、明細付きで説明する。
原状回復で煙草の影響を判断するために
喫煙によって居室全体のクロス等にヤニの変色や臭いが残っている場合は、国土交通省のガイドライン上、居室全体のクリーニングまたは張替え費用が借主負担の対象となり得ます。ただし、請求範囲や負担額は一律ではありません。居室全体への影響、清掃での改善可能性、経過年数、契約・特約を確認して判断します。
管理会社やオーナーは、喫煙の事実だけでなく、損耗の範囲と工事の必要性を証拠で示すことが大切です。借主側も、入居時と退去時の状態、見積明細、負担割合の根拠を確認しましょう。判断が難しい場合は、契約資料と現地記録をそろえたうえで専門家や関係機関へ相談すると、論点を整理しやすくなります。
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